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学校訪問記 vol. 04 横浜市立軽井沢中学校

2008年01月23日(水)「横浜市立軽井沢中学校」

軽井沢中学校の皆さんと心の宅急便メンバー

「軽井沢中学校の皆さんと心の宅急便メンバー」
右から鹿島副校長先生、笠原校長先生
一番左が坂本先生

「ウキャー!!やっぱり雪ダーーー!!予報通りダー!」

2008年初の「心の宅急便」の朝、目を覚ましたら窓の外は一面の雪景色だった。

隣の家の屋根もお向かいの家の屋根も、道も庭もご近所の木立も何処もかしこも真っ白!人の心も知らずに雪はしんしんと降りしきっている。この調子ではどんどん積もりそうだ。「あーあ」思わずため息が漏れてしまった。

ここ一週間、カラリと晴れ渡った青空がずっと続いていたのに、天気予報は何故か今日だけ雪マーク。明日からは又いいお天気に戻るとか。。。。どうなってるのオ、一体?「そうか。。。。レインステイックは雨で足りなくてとうとう雪まで降らせてきたか。。。」そう思った途端、腹の底からえもいわれぬ楽しい笑いがこみあげて来た。

思い返せばこの「心の宅急便」がスタートした昨年の11月から、この講演日当日だけは毎回必ず雨が降っている。しかもずっと天気は良くても、その日だけは何者かが律儀に雨を降らせてくれるのだ。その犯人は「レインステイック」である。

レインステイックとは「心の宅急便」で朗読に合わせ演奏と踊りをしてくださる卑弥呼さんの楽器で、実はその名前の通り「雨を呼ぶ楽器」なのだ。内側に棘棘がある長い竹筒のようなサボテンで、筒の中に小さな小石が入っているその楽器は、時に雨音のようにやさしく、時に嵐のように激しく、時に虫の羽音のような風の囁きのような音色を聴く人の心に運ぶ楽器である。

その楽器を自在に操りながら、軽やかに優雅に舞い踊る卑弥呼さんの姿は雨乞いをする美しい巫女にも似て、こればっかりは雨を降らせるからと言って「心の宅急便」から外す訳にはいかない。この楽器に始めて接し、卑弥呼さんの舞う姿に触れる子供たちに驚きと感動を届けるのも「心の宅急便」の仕事のひとつなのだから。

「心の宅急便」では濡れては困る紙人形や書籍などを学校に運びこむため、雨は大敵である。悪天候は外へ出る人の足と心を鈍らせる。生徒だけでなく保護者の皆さんに一人でも多く来ていただき聴いてもらいたいため、できればいいお天気になって欲しいと願うのだが、まあネ、レインステイックが相手では文句を言うわけにはいかないね。

「皆さん、2008年初の心の宅急便、初雪でーす。寒いけどよろしくー!」

午前10時、原田さんの車に乗り込んだ『宅急便メンバー』四人は、まだ雪の降る中を一路、西区の軽井沢中学校へと向かった。横浜駅西口からバスで三つ目のバス停「北軽井沢」で下車すると、通りを挟んだ向かい側に洒落たマンションのようなベージュ色の5階建ての素敵なビルが聳え立っている。それが軽井沢中学校だ。

徒歩10分以内の丘の上には県立翠嵐高校、南に下って徒歩5分程で市立宮谷小学校、坂を上がりきった道路の西側が緑多い三ツ沢公園と、文教環境&都心の便利さを併せ持った立地に恵まれている。創立46年の軽井沢中学校は、7年前の平成13年に一部冷房を備えた新校舎に建て替えられた。頻繁に車が行き交う県道13号線に学校が面しているため、通りから流れ込んでくる騒音を遮断するためである。

「でもね、ごめんなさい。校舎だけなの。講演をしていただく体育館は前のままで冷暖房が入ってないんですよ。」「できるだけ暖めておきますから」と申し訳なさそうに言ってくださった副校長の鹿島雅子先生の言葉を思い出し、素足で踊る卑弥呼さんには「ホカロン一杯持ってきておいてね」と伝えておいた。だが、軽井沢中学校は白い雪の冷たさを溶かしきる暖かさで私たちを迎えてくれたのだ。

「いらっしゃい!お待ちしてましたー!」軽井沢中学校の通用門を入り、体育館前の車寄せに停車して校内に電話をすると、明るく弾む声で鹿島先生が姿を現した。昨年の打ち合わせでたった一度お会いしただけなのに、何十年来の友人のような親しみと温かさを感じさせてくださる先生だ。「寒かったでしょう?雪になりましたね。控え室、体育館、できるだけ暖めておきました」もう、その声だけで心はホカロン!

「校長は今、西区の校長会で会議中ですので、後ほど終わったらいらっしゃいます。申し訳ありませんと言っておられました」。とーんでもない!笠原校長先生は、この「心の宅急便」を区内の人権教育担当の先生方にも見ていただけるように、担当者会のある日を講演日に設定してくださったのだ。有り難いことである。

この「心の宅急便」を一人でも多くの子供たちに届けるには、一人でも多くの教育関係の人々に知っていただくことが必要である。そんな機会をくださった笠原先生に大感謝である。

昨年11月、都岡中学校校長古川三千代先生のご紹介で「心の宅急便」にお声がかかり、軽井沢中学校を訪れ笠原先生にお会いした時、校長先生の子供を想う熱い情熱とお話に引きこまれ、ほんの30分ほどの打ち合わせの予定が二時間近くも話し込んでしまったことを思い出す。

どうしたら子供たちが学校生活を楽しく送れるか、どうしたら子供たちの個性を伸ばし育てられるか、どうしたら子供たちの心を汲み取れるか、校長先生の想いとお話は自然に「いじめ」の話題に向かった。「いじめのないように気をつけて心を配っているつもりですが、本校でもいじめはあると思います。又、生徒自身がいじめをしていると感じていなくても、”されている”と感じている生徒がいることも事実です」笠原先生は真っ直ぐに顔をあげて私にこう言った。

「ほとんどの生徒が、小学校から9年間一緒に持ち上がりと言う環境は、気をつけていても社会性に疎くなってしいまいがちなんです」

軽井沢中学校の全生徒は徒歩5分、創立100年の歴史を持つ宮谷小学校の卒業生だけで占められている。各学年2クラス、全校生徒が約200人の軽井沢中学校の生徒は、小学校に入学した時から楽しいことも悲しいことも一緒で、人数の少なさから互いに熟知し互いに歩んできただけに、心の結束も連帯感も他校にはみられない強さとまとまりがある。

だが、それだけに、一旦その中に違和感を持ったり、外れたりした場合は逃げ場がない。他校のようにクラス替えで知らない生徒同士と、シャッフルして生活環境を変えるということができないのだ。

「心というものは扱いが難しいものです。ただ成績をあげることだけが教育ではありません。この学校に通って来ている一人一人が幸せに楽しく感じながら心豊かに勉強に励んでもらいたい、それが私の願いですが、自分の力が及ばないと感じることもしばしばです」

現実から目を逸らさず現実から逃げることなく、子供たちに何が起きているかを把握しようと心を配っていらっしゃる笠原先生の姿は、今まで「心の宅急便」で訪問させていただいている各校の校長先生方と全く同じだ。

近頃のいじめ事件が起きる度、「我が校にはいじめなどありません!」とテレビなどで責任逃れをする学校長たちに聞かせてやりたい言葉だ。「そういう想いで校長先生が生徒に向かっていてくださる限り、この学校は大丈夫です。頑張ってください!」感激して私はそう応えたものだった。

何処の組織も「長」が職場の雰囲気と人を作る。軽井沢中学校もこの笠原先生と鹿島先生のお人柄が反映して先生方も生徒たちも都会的な温かさを滲ませている。目が合うと ニコッとはにかんだように微笑むのだ。そして軽く会釈をする。「コンニチワー」と大きな声をかけてくれる訳ではないのだが、ふんわりとした親しみの気持ちがスーッと伝わってくる。

お昼のお弁当の時間に具沢山の美味しいスープを作ってくださった用務員の皆さん、何処からこんなに沢山のストーブが?!と驚くほどの台数を体育館に運びこみ、床だけでなく舞台の上までストーブを2台置いて暖めてくださった人権担当の坂本先生、こちらの不手際で進行表もないままお願いしたのに、終始笑顔で照明を担当してくださった木村先生…、木村先生の手足となって働いてくれた可愛い生徒たち…。

午後二時半、温かな気持ち一杯に包まれて軽井沢中学校での「心の宅急便」は始まった。一時間強の朗読講演が終わり生徒たちが豆紙人形を見学する時間になった。舞台を降りた私は、ちょっと離れた場所で生徒たちの姿を眺めていた。

そこへ、そっと一人の女の子が近づいてきた。「あの。。。。」女の子は小さな声を出した。そして一気に私に向かって話しだした。「私、今 辛い気持ちでいます。いじめの中にいます。でも、今日のお話を聞いて、お嬢さんがいじめを乗り越えたお話を聞いて、頑張る勇気が出ました。ありがとうございます」

思いつめたような少女の顔に言い切った自信と明るさが広がった。「よかった。こちらこそありがとう!うちの娘も今は幸せになっています。大丈夫!必ず貴女も乗り越えられるから、大丈夫だよ。頑張って!」女の子の手を握り返しながら私は声をかけた。涙が思わずポトポト落ちた。

「心の宅急便」で学校めぐりを始めてまだ4校目、でも、終わると必ずこうして駆け寄ってきてくれる生徒が一人か二人いる。私はもしかしたら、その一人か二人だけに向けてこの「心の宅急便」を届けているのかもしれない。でも、それでもいい。一人でも二人でもこうして想いが届いたら、そして 一人でも二人でも多くの子供たちがいじめの怖さや哀しさに気がついてくれたら、それでいい。そんな気持ちでこれからも続けていくつもりだ。

軽井沢中学校の素敵な先生方、可愛い生徒の皆さん、今日も楽しい時間をありがとう!

又、会えるといいね。

横浜市立軽井沢中学校の公式サイト


                                                                                                                         
 
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