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学校訪問記 vol. 06 松戸市立六実中学校

2008年09月26日(金)「松戸市立六実中学校」

六実中学校の皆さんと心の宅急便メンバー

「六実中学校の皆さんと心の宅急便メンバー」
後列 右から倉下先生、町山先生
前列 右端 町田先生、左端 江口先生

松戸市の北東部に位置し、かっての農業中心から、近年、大規模な宅地開発により大きく変貌し、都市化した地域に在る松戸市立六実中学校は、近隣の住民の意識も多様化し、様々な教育課題を抱えているが、地域の学校教育への関心は高く、PTA活動も大変活発であるという。
その六実中学校は、実は「心の宅急便」の配達人であるレインステイック奏者、卑弥呼さんの母校である。今年の春、拠点をアメリカに移しアメリカで活動をしている卑弥呼さんが、この日の為に帰国し「心の宅急便」に参加してくれたのだ。
少子化の流れで生徒数が急激に少なくなっている昨今の学校事情の中にあって、昭和47年に開校した六実中学校は、生徒数712名、全学年で19学級を有するマンモス校だ。それでも卑弥呼さんによると「私の頃は一学年で9学級や10学級もあったんですよ」と言う。

スタッフの原田さんの車で、横浜から湾岸道路で東京を横目で見て千葉県に入った私たちは、六実駅近くで地元の卑弥呼さんの車と合流誘導してもらい、午前11時、松戸市立六実中学校に辿り着いた。
 正門からざっと校舎を見渡しただけで、大きさと奥行きに圧倒される。やはり700名以上を有する学校はデカイ!と言う感じだ。

最初に出迎えてくださったのは進路指導主事の江口里志先生。今回の「心の宅急便」の窓口となって色々と準備してくださった先生である。実は江口先生、卑弥呼さんの在校中の恩師で数学の先生。
「私、数学苦手だったので、江口先生によく補習していただいたんです」と卑弥呼さん。
彼女は3歳から習っていたバレーのお稽古で他の生徒のように塾などへ通う時間がなかったため、苦手な数学は江口先生の補習授業に頼っていたのだそうだ。
「アハハ、常連だったからね、君は」と江口先生。
「でも、まあ、その中で頑張って成績もよかったよな?」と助け舟を出すのは、当時の担任だった社会の町田正夫先生。お二人の言葉からも、卑弥呼さんが六実中学校時代、どんなに愛されていた生徒だったかが窺える。

江口先生も町田先生もその後他の学校に転任なさり、それぞれ江口先生は6年前、町田先生は1年前から六実中学校に戻られたのであるが、卑弥呼さんが卒業以来ずっと長い間大切にしてきたこのご縁のおかげで、「心の宅急便」は今日、六実中学校に呼んで頂けたのだ。
人の心は、時間や距離が遠く離れていても、きちんと向き合っていたものは揺らぎがない、そう感じさせられた空間が卑弥呼さんとお二人の先生方の間にあった。

「玄関口で立ち話もなんですから、まずは校長室へ」
江口先生のその声に、展示する豆紙人形などの荷物を移動させようとすると、いつの間にか現れた生徒たちが「体育館に運んでおきまーす!」と可愛い掛け声。
「おう、お前ら、大切な物だから、大事に大事にな」と江口先生がやさしく檄を飛ばす。
「分かってるってー!!」
キャキャッと弾けるような生徒たちの笑い声が廊下に響く。

二階の校長室では矢口敏雄校長先生がにこやかな笑顔で私たちを待っていて下さった。
「江口先生が中心で色々やってくださっているので、僕は今日はお客さんで楽しませていただきます。こういう催しは初めてなので生徒たちが喜ぶことでしょう」と矢口校長先生。
 体育館が空くまで暫く校長室で歓談した後、展示準備やマイクテストなどのために全員、体育館に移動する。途中、控え室などを通過したが、なんせ広くて、方向音痴の私は一人では校長室にも控え室にも戻れそうにない。トイレの時に迷子にならないように気をつけなくっちゃ!

体育館に入ると、入り口近くに荷物は整然と並んでいた。
私たちの姿を見ると 上級生と思われる生徒、男女20数名が、バラバラっと駆け寄って来た。
「お手伝いしまーす!何をすればいいか言ってくださーい!!」
気持ちいいくらい元気な掛け声だ。
まだ学生さんのように可愛い英語の倉下美樹子先生に引率されてお人形の飾りつけ手伝いをしてくれたのは、三年生の生徒たち。道徳の授業を振り替えて来てくれたのだそうだ。
「他の生徒は今、テストの勉強してるんだよ」と女の子がこっそりと教えてくれた。
そうだよねえ・・・・三年生の秋って言ったら、高校受験まっしぐらの時期で、一分も無駄にできない時だよね・・・君たち、手伝ってくれてありがとう!

「さあさあ、みんな、頑張ってエーー!」と威勢のいい女の先生のハスキーな声が背中で聞こえた。
保健体育の仲村妙子先生に引率されてきたのは、保護者の席の椅子並べを手伝いに来たまだ可愛い一年生の生徒たちだ。
「お世話になります」と挨拶すると、仲村先生のよく陽に焼けた小麦色の顔からニコッと真白な歯がこぼれた。

マイクのテストのために前方の舞台に上ると、MDやマイクのセッテイングなど用意してくださった理科の町山俊明先生が「今日は暑いですから、朗読なさる時の椅子の背後に扇風機を置きましょうか?」と心細やかなお申し出。
思わず「ありがとうございまーす!」と叫んでしまった。
 9月に入り、多少涼しくなったとは言え、着物姿の私に今日のこの蒸し暑さはきつい。
前回、卑弥呼さんと「心の宅急便」でご一緒した頃は震え上がるような寒い時期で、朗読する舞台の椅子の背後に先生方がヒーターを置いてくださったことを懐かしく思い出す。

先生方の心配りと言えば、舞台左手に置かれた箱型のピアノである。
実はこのピアノ、通常は舞台下に置いてあるそうだ。それを「心の宅急便」でピアノを弾く卑弥呼さんのために、昨日、柔道部の男の子たちと先生方が全員で壇上に持ち上げてくれたのだそうだ。しかも、先生方がやってくださったことはもうひとつある。
舞台で「朗読コンサート」をやる際に、スクリーンに朗読絵本のイラストを投影しているのだが、スクリーン前で演奏から踊りに移る卑弥呼さんのシルエットが影絵のように大きく映って、ファンタステイックな効果が生まれる。
 ところが六実中学校のスクリーンは 舞台手前に降りるようになっていて、スクリーンを降ろすと、踊る卑弥呼さんの姿が見えなくなってしまうのだ。
なんとかせねば・・!と、江口先生が一計を案じてくださった。舞台後方の壁に縦横5メートルの正方形を先生方全員で白いペンキを塗り、“臨時のスクリーン”を用意してくださったのだ。
「卑弥呼さん、素晴らしい先生方と母校を持って幸せね。有難いわね」
「はい」と小さく答えた卑弥呼さんの瞳にキラリと光るものがあった。

「ヤベーッ これカワイイー!カワイでやんのオー」
マイクテストも終わり、お人形を並べている生徒たちの傍に行くと、突然 一人の男子生徒が叫んだ。
「どれが可愛いの?」と訊くと、『いそいそ』とタイトルが書いてある小さな女の子の豆紙人形を指差した。
「な、これ、カワイイよな?」「うん、メチャ、カワイイ!」
男子生徒が口々に叫ぶ。
身体はすくすくと育って大人ほど背丈があるのに、素朴な幼顔が残っている三年生の男子生徒たちの声に私たちも引きこまれて微笑んでしまう。
「こんな感じの女の子がいたら 好きになっちゃう?」と聞くと「うん、絶対!」と即答。
女の子たちに「あなたたちはどのお人形が好き?」と聞くと、「えー、どれも可愛いけど、これかな?」と指差したのは『あら、恥ずかしい』と顔を隠す所作をした豆紙人形だった。
みんな驚くほど素直で無邪気だ。

豆紙人形を眺める生徒さんの写真 ヒロコ&卑弥呼と男子生徒さんたちの写真

2時からの「心の宅急便」講演前、お昼休みの時間を「生徒の豆紙人形鑑賞」の時間にあててくださったので、給食を終えた生徒たちが続々と体育館に集まって来た。みんな無邪気に、そして一生懸命にお人形を眺めている。その間、杉並第八小学校と同様に体育館でメッセージソングを流させていただいた。杉八小学校では「友だちにならない?」1曲だけだったが、今回は中学生が対象なので「あなたがいい」も一緒に流させていただいた。「あなたがいい」の歌詞は人生の辛さ、誤解、裏切り、失敗など、小学生には少し大人びた内容が盛り込まれているので 小学校では流さないことにしているのだ。

 講演冒頭に、生徒たちにはメッセージソングの生まれた由来と、この歌で何を皆に伝えたいかを聞いてもらった。ついでに、少し図々しいかとは思ったが、壇上から音楽の小倉孝勇先生に「小倉せんせーい、みんなにもこの歌、教えてあげてくださーい!」と頼んでしまった。小倉先生、あの時、突然の呼びかけに気持ちよくお受けくださり、ありがとうございます!改めてここで御礼を申し上げます。

 8ヶ月ぶりの卑弥呼さんと一緒の「心の宅急便」は、まるで昨日一緒にやったように心が一体になった舞台だった。卑弥呼さんのピアノとレインステイックの舞に支えられた「手のひらのしあわせ」と「あなたがいい」の朗読も、まるで時間のブランクがなかったかのように自然に流れていった。
 だが、残念ながら卑弥呼さんとの「心の宅急便」は、今日のこの六実中学が最後となる。
 今年の春、グリーンカードの更新でアメリカに渡った卑弥呼さんは、心が震えるようなダンカンダンスに出逢った。そのダンカンダンスを極めたいという想いと、滞在期間が半年以上に変わったグリーンカードの新しい規約のために、卑弥呼さんは拠点を日本からアメリカに移すことになったのだ。
 だから、今日の六実中学校の舞台は、卑弥呼さんの「心の宅急便」の卒業式となる。

 講演が終わり、舞台から降りて体育館の出口に歩を進めた私たちの元へ、まるで卑弥呼さんとの別離を惜しむように、赤い風船がスウーッと上から舞い降りこちらに向かってきた。「あなたがいい」の朗読の最後で「飛んでけ 風船!」と私が客席に向かって飛ばす風船は、いつもは上に高く上がって天井に張り付いたままなのに・・・・。
「卑弥呼さん、ハイ。この風船は貴女にお別れを告げに来たのよ」
赤い風船を掴まえて卑弥呼さんに手渡そうとした時、体育館に面する向かい側の校舎の二階の窓から、女の子たちが大きく手を振り「風船 欲しいー!」と叫んでいる声が飛んできた。

「ヒロコさん、風船、生徒さんにあげてください」
卑弥呼さんがそう言ってくれたので、私は二階の女の子たちに大きな声で叫んだ。
「欲しい人は 取りにおいでー!ここから飛ばすと 空に上がっちゃうからー!!」
 その言葉が終わるか終わらないかの間に女の子たちがダダダッと階段を駆け下りてきた。
「ハイ」と渡すと「アリガトー!」とくしゃくしゃの笑顔で駆け去った。

「あの子たち、今 ムトーさんから夢と希望をもらったんですね」
いつの間にか傍らに来ていた仲村先生が ハスキーな声で私に語りかけた。
「今日の講演、あの子たちはしっかりと受け止めていました。私は確かにそう感じました」
そう言って仲村先生は私の手を握ってくれた。
「ありがとうございます!」
私も仲村先生の手を握り返した。

 六実中学校の校門を出る時、卑弥呼さんと先生方が送ってくださる背後から顔を出した生徒たちが大きく手を振っていた。
「さよーならー」「さよーならー」の声にふと声のする方を見上げると、校舎の二階の窓から生徒たちが一生懸命手を振ってくれている。

さよーなら、六実中学校の先生方、生徒の皆さん、又、いつかお会いする日まで!
そして さよーなら 卑弥呼さん、アメリカでのご活躍を心からお祈りしています!

松戸市立六実中学校の公式サイト


                                                                                                                         
 
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