2008年11月13日(木)「郡山ザベリオ学園小学校」
「郡山ザベリオ学園小学校の皆さんと心の宅急便メンバー」
後列左から小野寺先生、高橋先生、校長先生
前列中心 柳沼先生
急に冬めいて肌寒い朝8時過ぎ、昔懐かしい日本家屋住宅が建ち並ぶ郡山の町は、ミルク色の朝もやに包まれていた。
「山道じゃなくて、街中でこのくらい靄っているのは珍しいわね」
「でもこの景色、ロマンチックね、素敵!」
昨夜泊まったホテルをチェックアウトし、遠距離地方講演第二弾、私立・郡山ザベリオ学園に向かう車中から、私たち「心の宅急便」メンバーは初めて訪れる郡山の町並みを感動しながら眺めていた。市中を走る道路の両脇に、燃えるような紅色、鮮やかな黄色の葉が美しいグラデーションとなってそこかしこに広がっている。
都会と違ってとても樹木が多い。しっとりと落ち着いてゆとりのある閑静な家並みに、間隔を置かずに設けられている広々とした公園に、施設らしき建物の庭に・・
「宝の山・磐梯山の雄姿を湖面に映し、天の鏡と称えられる猪苗代湖を背景に持ち、大自然に恵まれ、歴史と伝統が息づくところ・・・」と観光案内にあるこの郡山市だが、昨昼横浜を出発し、車を飛ばして暮れなずむ郡山に着き、翌朝9時までに学校に向かう予定の「心の宅急便」には観光の“カ”の字もない。だが、この美しい紅葉を間近に見ることができただけで十分だ。
朝もやの日は必ず晴れるとか・・・ザベリオ学園に到着する頃には靄が薄れ、青くカラリとした空が顔を見せ始めた。空気が綺麗なせいか お日様が眩しい!
北海道の田園風景のような視界が開けた先に、まるで絵本の中に出てくるようなグレーの三角屋根にピンクのタイル貼りの可愛い校舎が何棟も見えてきた。
「あ、あれだ!素敵な学校ねー!」と思わず感嘆の声が漏れる。
だが、広大すぎて何処が正面入り口なのかよく分からない。幼・小・中学校と同じ敷地にあるせいだろうが、それにしても東京や横浜では考えられない広さだ。
「うちは遠くから通ってくる生徒が多いので、保護者用の駐車場が200台、スクールバスが9台あるんですよ」と柳沼千賀子先生が昨夜言っていた言葉を思い出す。
カトリックの価値観を持つ人間教育、英会話に重点を置いた国際教育、発達段階に合わせて子供の力を引き出す教育などをモットーとし、公立校より週一時間英語と数学の授業が多いザベリオ学園のカリキュラムは、ちょっとやそっと遠くても、子供にしっかり勉強させたい親心を捉えて離さないのだろう。
昨夜、私たちを出迎えて一緒にお食事をした柳沼先生は、二年前まで上智大学神学研究科の大学院生だった方で、その時に、長村さんにハープを習っていた生徒さんである。
大学院を卒業した柳沼先生は故郷の二本松に帰り、昨年、カトリックの学校である郡山ザベリオ学園に宗教の教師として就職した。そしてそのご縁で「心の宅急便」を呼んでいただいたと言う訳である。
大学を出たばかりのような溌剌とした若さを持つ柳沼先生だが、実は人生経験豊かなユニークな先生である。上智大学へ編入する前は貿易のお仕事をなさっていた。つまり女性起業家だったのである。「やりたいことは大体やった」と貿易の仕事にけりをつけた柳沼先生は、昔からやりたかった勉強を始めた。宗教の勉強は人生経験を積んでからと心に決めていたからだ。そんな柳沼先生だから話をしていてとても面白い。初めて会った人とは思えないほど話が弾み時間が経つのを忘れ私たちは語り合った。
さて、正面玄関は何処だ?と迷った私たちは、取りあえず一番近い場所の駐車場に車を入れて鑑賞教育担当の小野寺由佳先生に携帯でお電話した。これだけ広いとぐるぐる回ってとんでもない場所に行ってしまいそうだ。
「そこからはどんな景色が見えますか?あ、分かりました。そこを動かないで待っててください!」すぐ迎えに飛んで来てくれた小野寺先生は幼稚園から小学生までを担当する英語の先生である。背中まで伸びた長い黒髪、黒いドレスに白いカーデイガンを羽織った小野寺先生はバンビのような大きい瞳の可憐な先生だ。何回かメールで必要事項をやり取りさせていただいたが、文章のイメージ通りの先生である。
偶然にも、車を駐車させた場所は正面玄関からは遠いが、講演する講堂に一番近い駐車場だった。まずは荷物を運びこみ、豆紙人形の展示やスクリーン&マイクテストなどを先にさせて頂くことにした。
講堂の舞台上には、もう既に柳沼先生のアイリッシュハープが大小二台セッテイングされていた。学校まで45分の二本松のご自宅からこの大荷物を車に乗せて、昨日のうちに運び込んでくださったのだ。
今回は現地で柳沼先生の楽器をお借りできるので、長村さんはハープ無しの身軽なスタイルでやって来た。後は弦や音の調整と子供たちが目を輝かすシンデレラのドレスのようなライトグリーンの衣装に着替えるだけ。
ハープ奏者の長村さんは、ハープがこれほど似合う人はいないと思えるほど楚々として美しい女性だ。彼女が奏でる美しいハープの音色の中で朗読をさせていただける私は、本当に果報者である。
理科を担当なさっている校長先生は目下授業中ということで、講演が終わってからご挨拶ということになり、用意されているテーブルにお人形の飾り付けをしていると、照明やスクリーンなどを担当してくださる六年生担任の高橋裕之先生がいらっしゃった。
「遠いところからよくおいでくださいました。どうぞ何でもおっしゃってください」
声もお顔も物腰も優しいお人柄が滲みだしている。なんだか牧師様のような感じだ。
「それでは お言葉に甘えて早速・・・」
制作の原田さんが舞台や会場照明のオン・オフのタイムテーブル表をおもむろに取り出して打ち合わせにかかる。
それぞれのパートで舞台の段取りなどを打ち合わせていると アッという間に開演時間が迫ってきた。
「そろそろ一年生から六年生まで子供たちが自分の椅子を運んでやってきます。お人形を見てから席に着きますので、どうぞ舞台の上に上がって待っていらしてください」
小野寺先生の言葉に慌てて舞台の上に上がった私と長村さんは 舞台の袖のカーテンの陰に隠れた。
ガヤガヤという子供たちの声がさざ波のように遠くから聞こえてきたかと思うと、講堂のドアが開くと同時に熊蜂の大群が押し寄せて来たようなウオンウオンといううねり声が
広い講堂を揺るがした。思わず長村さんと顔を見合わせる。
お人形を鑑賞し、見終わった一年生から六年生まで350人が順番に席に着く間、この熊蜂の声は静まることなく間断なく続いている。椅子を並べて座った前列の方からはキャッキャッと楽しげな可愛い声も聞こえてくる。
長村さんとそーっとカーテンの陰から首を伸ばして客席を覗くと、なんとまあ、まるで生後2、3カ月の子犬のような可愛い一年生たちが 椅子から立ちあがって「セッセセーのヨイヨイヨイ」をやっていたり、椅子に座って小さな足をブラブラ揺らしていたり、隣の子と肩を押し合って遊んでいるではないか。
「可愛いー!」と言いながら長村さんと私の顔にしばし不安の色がよぎる。この状態で「心の宅急便」を静かに聴いてもらえるのだろうか?
チリンチリン!という涼やかな鈴の音が前方で鳴った。
すると、あんなに騒がしかった講堂がサーっと波が引くように静かになった。
「静かにしなさーい!」と言う大きな声でもなく、怒りの混じった声でもなく、やさしい小さな鈴の音ひとつで、前列で足をブラブラさせていた小さな子たちがちゃんと前を向き足を床につけている。
凄い!
又、思わず長村さんと感激の顔を見合わせる。
押さえつけられずに自由に育てられているからだろうか、ザベリオ学園の生徒たちは都会ではもう何処にも見られないほどに無邪気で天真爛漫だ。
昨年まで幼稚園だった一年生の生徒から、もうすぐ中学生になる六年生の生徒までいる小学校の年齢差の中では、どの年齢に話を合わせて講演するかが一番難しい。柳沼先生の事前のアドバイスにより、私は三年生から下に焦点を当てて、親近感を持ってもらえるように話しかけることにした。
冒頭の自己紹介で「ヒーロコちゃんと呼んでください」「ハープの長村さんはミーヨコちゃんと呼んでください」などと声かけするとなんと一年生から六年生までが声を揃えて「ヒーロコちゃーん!」「ミーヨコちゃーん!」と応えてくれるではないか!
とにかくノリのよさと反応の素早さでは今までの学校の中でダントツトップである。
それでいて、メッセージソングの「友だちにならない?」の歌を流し、その歌が生まれたある女のこのいじめの背景を話すと、小さな子たちも一生懸命に耳を傾けてくれた。
今日は、「野良猫ムーチョ」という、生まれながらに盲目の猫の本を朗読するので、「みんなは猫が好きかな?」などと問いかけると、「スキー!大好きー!」と、とたんに大合唱が返ってくる。
「他には、どんな動物が好き?」と問いかけると、「ハイハイハイ!」と我先に手を挙げて「犬―!!」「鳩―!!」「金魚―!」「ブター!」と口々に大きな声で答えてくれる。
中には「ライオンー!!」などという声も。
他人の目を意識しない伸びやかな天真爛漫さは高学年も同じだ。後ろの方の席も一斉に手を挙げて声を出して主張している。当てて欲しくてピョンピョン飛びながら両手を挙げて振っている女の子もいる。舞台の上と舞台の下との楽しいキャッチボールが進み、ハープのポロロ〜ンという演奏から朗読が始まった。
「低学年の子は、10分とじっと静かにしていられません。何しろ、生まれて10年かそこらですから」という柳沼先生の事前情報に心配していたことなど何処へやら、ザベリオ学園の子供たちは、聴くべきところは静かに聴き、乗るべきところは思い切り自由にノリと、楽しみ方を知っている子供たちだった。
ハープコーナーでも、長村さんのハープの説明をちゃんと大人しく聴いている。
「ペダルの休日」「バルカローレ」とクラシックの名曲は音楽鑑賞の態度で聴いていたが、三曲目の「千と千尋の神隠しから “いつも何度でも”」と子供たちに馴染みの曲名を長村さんが言うと、「ワーっ!」と歓声と拍手が湧き上がる。ラストの「崖の上のポニョ」に至っては、のっけから全員がハープに和して大合唱を始めたのだ。
「♪♪ポーニョ、ポーニョ、ポニョ、魚の子、青い海からやって来た♪♪」
身体を揺らし、声を揃えハープに合わせて楽しそうに大合唱する子供たち・・・聴いている私たちの心まで幸福にしてくれる。
「天使みたいに天真爛漫な子供たちですね」
講演が終わった後、校長室で堀江良一校長先生とお話をしながらそう言うと、「はい。田舎の子たちですから、まだ素朴なんですね。全然物怖じしないし、恥ずかしがったりしません。うちの子たちは教育熱心な親ごさんが多いのですが、ある意味生活に恵まれているせいかとっても伸び伸び育ってます」
穏やかな顔をほころばせて堀江校長先生がおっしゃった。
「でもね」
堀江校長先生の目が悪戯っ子のような光をキラリと放った。
「天使の子も毎日だと結構大変ですよ。あの子たち、悪さも実に天真爛漫にしますから」
一斉に校長室に笑い声が響いた。
校長室を辞して紙人形を片付けに講堂に行くと、お掃除やお片づけをしていた六年生の男子児童たちが「ヒーロコちゃーん」「ミーヨコちゃーん」と十数人寄ってきた。
「あんな小さなお人形、目が悪いおばあちゃんが作ったんだね?」「作るのにどのくらい時間がかかるの?」「ヒロコちゃんは作れるの?」
次から次へと素朴な疑問を投げかけてくれる。
「楽しかったよー。又 来てくれる?」「友だちにならない?って歌もとてもよかった。僕 好きだよ」
ウワーッ、なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう?!
「友だちにならない?って歌、みんな覚えて歌ってくれるかな?」と言うと、眼鏡をかけた学級委員タイプの男の子がニコッと笑って答えた。
「多分、齋藤彰子先生が授業で教えてくれると思いますよ。あの歌、いい歌だから」
この子たちを写真に撮りたいとバッグからカメラを取り出すと、目ざとく見つけた子供たちが「アッ カメラだ!一緒に撮ろう!」と叫んだ。
「一緒に写真!一緒に写真!!」とシュプレヒコールが講堂に響き、その声を聞きつけた女の子たちが「私もー!一緒に写真―!!」と駆け寄って来た。
子供たちに囲まれもみくちゃにされ嬉しい悲鳴をあげながら、「心の宅急便」のメンバーはVサインをして一緒のカメラにおさまった。
堀江校長先生、柳沼先生、小野寺先生、高橋先生、齋藤先生、ザベリオ学園の先生方、今日はお呼びくださって本当にありがとうございました!
そしてザベリオ学園の天使のような子供たち、ありがとう! 又 会おうね!
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