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学校訪問記 vol. 03 横浜市立都岡中学校

2007年12月03日(月)「横浜市立都岡中学校」

都岡中学校の皆さんと心の宅急便メンバー

「都岡中学校の皆さんと心の宅急便メンバー」

「生命の共生、自然との調和」をメインテーマに掲げ、広大な敷地を持つ「よこはまズーラシア動物園」に隣接する横浜市立都岡中学校は、住宅街からひょいと数百メートル外れただけで人家は一切なく、贅沢にも周囲を高くこんもりとした樹々に囲まれた中学校だ。

校庭に立って空を見上げると、森閑として誰にも邪魔されない自然の懐に大きく抱かれているような気がする。こんな豊かな自然に恵まれたロケーションの学校に毎日通っていれば 生徒が明るく伸び伸びと育つのも不思議はない。

「都岡中学校の生徒は元気でやんちゃで、実に子供らしい楽しい生徒ですよ」先月下旬、公演の打ち合わせで都岡中学校を訪問する前に立ち寄った旭区役所の鈴木課長がニコニコとそう語ってくれた。

「子供らしい生徒」、今の時代に一番欠けているフレーズだ。その言葉を楽しみに校門をくぐった。「ところで職員室はどこだろう。?」目の前に広がる誰もいない校庭。校庭に沿って逆L字型に建てられた校舎。正面に昇降口らしき入り口が見えるが左側はどうやら体育館のような気配。どう見ても玄関じゃない。「もしかしたら裏門から入ったのかな?」

全く人気がなかった正面の昇降口から男子生徒が三、四人ほど姿を現した。子犬がじゃれあうように肩をぶつけ合いながら仲良くこちらに向かって歩いてくる。彼らに職員室の場所を聞こうと思いながら一瞬、逡巡した。今時の中学生の男の子は、知らない関係ないおばさんに声をかけられるのは嫌なんじゃないだろうか?と思ったのだ。

ふと見ると 彼らの後方に女の子の姿が一人小さく見えた。「そうだ。あの女の子に聞こう」と思う間も無く彼らが元気な足取りで近づいて来た。

突然、ワイワイ話していた彼らが一斉にこちらを向いて立ち止まった。そして弾けるような爽やかな笑顔で「チワーッ!!」と大きな声をかけてくれたのだ。

思わず「ウッ 可愛い!」と思ってしまった。学校の先生でもない限り、普通のおばさんは中学生の男子生徒に可愛い笑顔で声をかけられることなど滅多にない。これが公演後だったらまだ分かるが、普通の日の午前中、しかも着物など着てしゃなしゃな胡散臭いおばさんがやって来たら、普通「ウザイ」と思うんじゃなかろうか?それなのに この人懐っこい少年らしい笑顔はなんだ?!

「ねえねえ、君たち、職員室はどこ?」当然、おばさんは嬉しそうに彼らに訊ねた。それに対する返事も親切丁寧で、おばさんはルンルン気分で職員室に辿り着いた。彼らだけでない。そこに行くまで出会った男の子も女の子も、まるで仲のよい友達のお母さんに対するような親しみをこめた笑顔と挨拶を、威勢のいい声で積極的に投げかけてくれるのだ。

「古川先生ー!ここの生徒たちカワイイーー!」校長室に入って校長の古川三千代先生に会ったとたん、私は叫んでいた。「でしょう?でしょう・・?!!」私の説明が終わるのももどかしげに自慢げに古川先生の目尻がデレデレに下がる。「うちの子、本当にカワイイのヨ〜!挨拶いいでしょ!」

都岡中学校長の古川先生に出会ったのは16年前に遡る。二女の中学校の学年主任をやっていらしたのだ。3年前、銀行でばったり再会し、それ以来お付き合いさせていただいている。何故かその時、古川先生は私を担任の子の母親と信じ込んで声をかけてくださったのだ。

古川先生は3年間、二女の学年主任でいらした。理科を教え、ご自分のクラスも受け持っていたにも関わらず、学年全員に目を向けて愛情を注いでいらしたので、3年間の間に他クラスの生徒との垣根が取れ、ほとんどの生徒を自分が担任のように思われてしまったのだろう。

一度も受け持っていただいていない二女のことも、まるで卒業したての教え子のようによく覚えていてくださった。その目の確かさや愛情に感動するとともにその記憶力の凄さに舌を巻いたものである。

今年の夏、母の追悼展を兼ねた「パリ〜豆紙人形展」がきっかけで持ち上がった「学校巡り〜心の宅急便」の企画は帰国して真っ先に信頼する古川先生に相談した。

レインステイック演奏者の卑弥呼さんと一緒に、母の人生を書いた「手のひらのしあわせ」と二女のいじめ体験から生まれた「あなたがいい」の本の朗読コンサートをしながら、子供たちに「自分を好きになること」「いじめの怖さ、悲しさ」「生きていく勇気」「人生はいつでも始まり、自信を持って」などを伝えたいという私の想いを聞いたとたん、古川先生は私の手をしっかりと握りこう言ったのだ。

「ムト−さん、ぜひ、やってください。私にできる事は協力しましょう。今あらゆる教育の現場に”心の宅急便”があればと思います。教師も子供たちに心をどう伝えていいか悩んでいます。これは生徒だけでなく親にも先生達にも”心が届く”と思います」

「思ったら直ぐ動く」古川先生の行動力と馬力は素晴らしい。「心の宅急便発起人」を引き受けてくださっただけでなく教師として今まで培った貴重な「古川ル−ト」に早速お声をかけてくださり、火付け役として瞬く間に実現にむけて確実なレ−ルを敷いてくださったのだ。

そして12月3日、心の宅急便第三校目、「本丸」都岡中学校の日がやって来た。予定の11時より早めに都岡中学校に到着し、校長室で今日の打ち合わせを開始する。先日、打ち合わせの日にもお会いしたPTA副会長の田中麻樹子さんが間もなくお手伝いに来てくださった。

「古川先生が今春、校長先生として赴任なさってから、この学校ぐんぐん変わって来ています。とても良くなってきているんです。入学した頃は色々あったんですが、私の息子も卒業する今年になって、”この学校、最高!”って叫んでます」と語ってくれた人である。

都岡中学校の校長室は校長室とは思えないほど気さくでなごやかである。入れ替わり立ち替わり人が訪れる。「ねえ、美味しいから一口食べみて!」栗原副校長先生のお家のお庭で取れた柚子で試作したというジャムを塗った美味しいパンを、古川先生が私たちや校長室に訪れる人に差し出す。

「磯部さん、磯部さん、今日はみんなを綺麗に撮ってくださいね」磯部さんは動植物撮影が得意分野で学校のHP用写真を撮影しているお一人だそうだ。いかにも高価で性能がよさそうなカメラを持ったロマンスグレーの事務職員さんが、「任せてください」とばかり古川先生に大きく頷く。

「はいはい、お礼に柚子ジャムパン、一口」「誰か食べてない人いますか〜?」古川先生のハスキーな声が校長室に響く。なんだか大人の学園祭の乗りだ。わざわざ「心の宅急便スタッフ」のために取ってくださったお弁当を早めにいただいて、いざ、体育館へ!

講演会場の体育館は午前中の体育の授業が終わった途端準備にかかる。都岡中学校の石原軍団?ハ−ドボイルドイケメン佐々木先生の指揮の下、先生方やPTAの役員の方々がくるくると広い体育館を動き回る。司会進行とオ−デイオをセッテイングしてくださる先生、舞台を作る人、椅子を運ぶ人、机をセッテイングする人、etc、etc

学校とPTAが一つになって準備してくださるからこそ「心の宅急便」は実現する。末の小さいお坊ちゃんを連れて手伝いに来てくださったPTA会長の入江さんの提唱で、寒い体育館を暖めるため、PTAの方々がご家庭からヒ−タ−を何台も運んできてくださっていた。思わず「合掌!」である。13時40分。玉置先生による講師紹介が終わって舞台に上がる。今日はいつもの倍緊張していた。実は今日、会場に二女の「あさこ」がいるのである。

「心の宅急便」で朗読する「あなたがいい」という本はこの二女のいじめ体験から生まれた本である。私は中学生の頃の娘の悲しい経験を各学校で生徒たちに話しながら「いじめの怖さ悲しさ」を伝えているのだ。私でさえ、話すたび、思い出すたび辛い話である。だからこそ、子供たちに本当にあった話として分かってもらえるだろうと各校で語ってきた。とは言え、いくら過去のことであっても当事者の娘には聞かせたくない。

だが、最初の旭中学校での講演後、全校生徒のアンケ−トが佐々木校長から送られて来て、偶然その日我家に立ち寄ってアンケ−トを読んだ娘は、読み終わった後、顔を上げてこう言ったのだ。「古川先生の学校は何時やるの?私、その日、仕事休んで手伝いに行くよ。」娘は生徒たちの素直な心のこもった感想の言葉を読んで感動したのだ。「いいの?講演ではあんたの話をするのよ。聞いて辛くない?」そう言った私に娘はニッコリ笑って答えた。「ママがあの時私を必死で守ってくれたから、今の私の幸福がある。担任でもないのに、遠くから私の存在を気にかけてくれて守ってくれていた古川先生がいたから、あの時、私へのいじめも酷くならなかったと思う。恩返しに古川先生の学校だけ、手伝いに行くよ」「そう・・・・。」としか言わなかったが、私の胸の中には熱いものが込み上げていた。娘の口から初めて聞いた言葉である。こういうことがサラッと言えるくらい、今の娘は幸福なんだ!

講演終了後、玉置先生が「実は、今日、この会場に「あなたがいい」でムト−さんがお話した”あさこさん”が来ています」と紹介した。娘が「私の経験が、どこかでいじめられている子に役に立つなら 一言くらい話してもいいよ」と言ってくれたからだ。人前で話すことが人一倍苦手な娘、目立つことが嫌で嫌で仕方ない娘が、である。

壇上に上った娘は、子供たちに「自分を信じること、できないと思うことでもやってみればできること、そして道は開けること」を語ってくれた。そして、今、自分は幸福であることを。自分を守ってくれている幼馴染の夫との再会も、勇気を持って前へ進んだからこそだと言うことを語って壇を降りた。

「握手してください!」「あさこさん、握手!」会場を去る時、生徒たちが娘に駆け寄って握手を求めた。「ありがとう」と返す娘の顔も晴れやかだった。

こんな機会をくれた古川先生、ありがとう! 素直で可愛い都岡中学校の生徒たち ありがとう!

横浜市立都岡中学校の公式サイト


                                                                                                                         
 
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