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学校訪問記 vol. 05 杉並区立杉並第八小学校

2008年09月11日(木)「杉並区立杉並第八小学校」

杉並第八小学校の皆さんと心の宅急便メンバー

「杉並区立杉並第八小学校の皆さんと心の宅急便メンバー」
右から田辺副校長先生、宮島校長先生、心の宅急便メンバー

二学期最初の「心の宅急便」は、今でも下町情緒と心温かな雰囲気を残し、「東京高円寺阿波踊りの街」として勇名な東京都杉並区高円寺駅の南700mに位置する杉並区立杉並第八小学校である。
商店街、住宅地が混在したこの地域にあって、杉並第八小学校は学校、保護者、地域が一体となった教育を進めており、「土曜学校(サタハチ)」、杉八子どもキャンプ村」「こうえんじこどもまつり」、「音楽教室」、「箏教室」など、地域と協力した行事・活動が盛んだ。高円寺阿波踊りの中心地区であることから、運動会の全校ダンスは、職員、子ども、保護者、地域が輪になり一緒に踊る姿が見られ、街の人々との心の輪を更に深めている。

秋晴れとは言わないが、昨日より少し気温が低く過ごしやすい9月の二週目、木曜日。チーム・「心の宅急便」4名はそれぞれの場所から杉八小学校に向かった。今回からパートナーとして演奏参加してくださるハープ奏者、長村美代子さんにとって宮島校長先生は長村さんの二人のお子さんの恩師でもある。そんなご縁からこちらに招いていただいたのだ。

宮島先生のご好意により、子供たちと一緒の給食も私たちに用意されていた。昔の給食と違って今の給食は信じられないくらい美味しいと聞く。なんてラッキー!「体育館がまだ授業中で準備ができませんし、校長も只今校長会が延びておりますのでお先に召し上がってください」と田辺陽一副校長先生がお茶を入れながらにっこり。私たちもつられてニッコリ。

給食の写真

運ばれてきた給食を見たとたん、「美味しそうー!」と全員が思わず叫んだ。
なんと和食メニューなのだ。緑鮮やかな枝豆とピンク色したツナの混ぜ御飯。その傍らにはカリッと茶色に揚げられた豆鯵2匹。緑のモミの樹の可愛い縁取り模様が入った清潔感溢れる白い器は、地元杉並区みずなみ焼きの強化磁器で作られている。メインのお皿の横の小鉢には涼しげに切り干し大根ときゅうりのゴマ酢和え。深めのお椀にはたっぷり野菜の入ったお袋の味の味噌汁。その中身も人参、ごぼう、小松菜、シメジ、じゃが芋、玉ねぎと6種類。煮干でダシを取ってコトコト煮たやさしい味だ。
最後に、無駄な紙ごみを出さないエコ仕様の壜の牛乳。
「うちは週に四回は御飯メニューなんです」と田辺先生。
「切り干し大根のメニューなんかも子供たち、意外に大好きなんですよ」
 お米離れの進んでいる現代の日本の子供たちでも、このメニューならきっと御飯を好きになるに違いない。両親共働きで母親が手間暇かけたお惣菜を作る暇が無く、昔ながらの日本の味やお袋の味を知らないで育っている子供たちが多い昨今、学校でしっかりと栄養のバランスが取れた和食を味わうことが出来るなんて素晴らしい!
「この給食の取り組み方、いいですね。それに実に美味しいです!!」
一粒も残さず完食した私たちは全員大絶賛!
「2年前から外部の民間に給食を委託していますが、子供たちにも美味しいと評判です」と田辺先生。メニューの写真が載っているパンフも見せていただいたが、子供たちが大好きなスパゲテイーやハンバーグ、パンメニューも当然入っている。それぞれ大人たちが見ても食欲をそそられるように上手に献立を配分していた。

ふと目についたのは大中小サイズのお弁当箱に入った写真。
「ああ、これはね、わが校は緑化された屋上で縦割り班みんなでお弁当を持って外で食べたりするんですよ。子供たち、喜びますんでね」
年齢に合わせてちゃんと容器が3サイズに揃えてある。教室の中で横一列の給食を食べるだけでなく、外の太陽を浴びて大きいお兄さんお姉さんと一緒に食べる同じ中身のお弁当給食は、子供たちにとって小さな遠足気分を味わえることだろう。

「それも人数が少ないからできるのかもしれませんね」と田辺先生。
遥か昔は一学年四学級あった杉八小学校も、少子化の時代の波に流され、今は一学年単学級、一年生から六年生まで全校生徒150人だそうだ。
だが、小規模小学校だからこそできる利点がある。一人一人の個性とよさを伸ばす教育ができるからだ。算数では学級を三分割にし、1集団10人程度の少人数指導(四年生ニ分割)を実施し、児童一人一人に対しきめ細やかな指導に努め基礎学力の確実な定着を図っているそうだ。

「いやあ、遅くなって申し訳ないです。校長会が思いのほか時間がかかってしまって」
校長室のドアが開いて、宮島先生のちょっとハスキーなやさしい声が飛び込んで来た。
 宮島先生には6月の半ばに長村さんに紹介されてお会いしている。その時の第一印象が大人にも子供にも垣根を作らない「とびきりやさしい笑顔」だった。初対面を感じさせないその笑顔と語り口につい引きこまれて、私も心のドアを全開にしてお話をさせていただいた。
 帰り際に目にした宮島先生と子供たちの会話もほのぼのと印象的だった。「せんせー、さよーなら」「はい、00君、さよーなら。また 明日」「ミヤジマせんせー、さよーなら」「はい、00ちゃん、さよーなら、気をつけて帰るんですよ」
一人一人に名前で声をかけて手を振る先生の姿。嬉しそうに手を振る子供たちの姿。何を語らなくてもその光景だけで先生と児童の関係が分かる。そこには、和やかで温かい中にきちんとした先生と児童との信頼関係と規律があった。

実を言えば、昨年11月から「心の宅急便」で中学校めぐりを始め、小学校はこの杉並第八小学校が最初の学校になる。最近、新聞やテレビで小学生の「じっとしていられない症候群」をやたら特集している。周囲からも「今の小学生は授業中でも 5分以上じっと先生のお話を聞いていられないんだって」と気になる噂を聞いていた。
 今回は三年生から六年生の中高学年ではあるが、子供たちの扱いをよく知っているベテランの先生方が手を焼く小さな子供たちに、現場から遠い私の話が受け止めてもらえるのだろうか?という心配がなかったと言えば嘘になる。
 しかし、私は信じていた。宮島先生と児童たちのあの心の交流を見させていただいていたからだ。私が子供たちに届けたいもの、伝えたいものは、きっと子供たちが受け止めてくれると。

午後1時15分、子供たちがぞろぞろと体育館に集まってきた。体育館の後方に展示した「豆紙人形」を子供たちが鑑賞している15分間、夏休み前に「心の宅急便」から生まれたメッセージソング「友だちにならない?」をずっと流させてもらった。体育館の最前方に座っている私たちからは、子供たちが聞いてくれているのか少しも関心がないのかどうか全然反応が分からない。
 鑑賞時間が終わり、先生に引率されて前方に進み、子供たちが私たちを囲むようにして規律正しく床に座った。これも宮島先生の「できるだけ子供たちに近い距離で朗読と演奏を聴かせたい」というご配慮からである。この「心の宅急便」をやることになったきっかけのパリ日本人学校での朗読と演奏もこれと同じように、1年生から6年生までの全校生徒が床に座って私たちを囲み聴いてくれたものである。その時のことがまるで昨日のことのように懐かしく私の脳裏に甦った。

校長先生のご紹介の言葉が終わり、2008年度最初の「心の宅急便」が始まった。
「ねえ、みんな、さっき、何か歌が流れていたけど、どんな歌だったか誰か覚えている?」
私の問いかけにシーンと答えのない子供たち。
「あれ?誰も覚えてないかな?覚えている人、手をあげて」
すると、二列目の男の子が「ハイ」と威勢よく手をあげた。「はい、君」|
指された男の子は恥ずかしそうに「友だちにならない・・かな?」と答えた。
 だが、なんとその男の子が答えると同時に、手をあげないながらも子供たちが小さな声で私に向かって口々に「友だちにならない・・?」「友だちにならないだよね?」と言ってくれているのだ。思わず胸がジン。あっ 聴いててくれてたんだ。

この歌は、昨年「心の宅急便」で訪れた、横浜のある中学校の壁に飾ってあった「ゆきちゃん」という女の子の絵手紙を基に作ったメッセージソングである。
ゆきちゃんは小学校時代三年間いじめにあっていた。周囲の人間関係が変わらないまま中学に進んだゆきちゃんに、勇気とおもいやりをもって「友だちにならない?」と声をかけた女の子がいた。そしてそのことがきっかけでゆきちゃんは明るく強くなれた。そのゆきちゃんの想いを書いた絵手紙を読んで感動した私は、その「友だちにならない?」という素晴らしい言葉がすっと自然に誰の口からも出て欲しいと祈りを込めてこの歌を作ったのである。作曲は歌も歌ってくださっている女性作曲家の丹羽応樹さん、今年の春、久し振りにお会いした時、この「心の宅急便」に何かお手伝いをさせて欲しいと申し出てくださったのだ。

そんなゆきちゃんの話を、子供たちは真剣なまっすぐの瞳で聞いてくれた。そしてやはりゆきちゃんと同じように子供の頃いじめにあった私の娘の話と、その娘を勇気付けるために書いた本「あなたがいい」の朗読も、最後まで騒ぐことなく食い入るような瞳で聴いてくれたのだ。子供たちが私の投げたボールを受け止めてくれた・・そんな気がして嬉しかった。
 いじめは小学生の子供たちにとっても身近な問題なのだろう。だが、こうして大人の話を子供たちがじっと聞く耳を持っているということは、やはり現場の先生方の力である。
 子供は力でねじ伏せても素直には言うことを聞かない。普段の日常が出来ていなければ突然乗り込んで来た大人の話などじっと聴くことはできない。現場の力、教育の力、そんなものをしっかりと感じさせていただいた一日だった。

宮島先生、杉八小学校の先生、そして杉八小学校の児童のみなさん、ありがとうございました!

杉並区立杉並第八小学校の公式サイト


                                                                                                                         
 
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