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学校訪問記 vol. 11 横浜市立青葉台中学校

2008年11月26日(水)「横浜市立青葉台中学校」

横浜市立青葉台中学校の皆さんと心の宅急便メンバー

「横浜市立青葉台中学校の皆さんと心の宅急便メンバー」
前列左から米井先生 右から二番目 織茂校長先生
後列左から大木先生 右から布沢先生、高橋先生

10月初旬、12月1日に予定されている横浜市立青葉台中学校へ「心の宅急便」の打ち合わせに行った。
青葉台中学の学区は1994年、港北区と緑区の再編により誕生した青葉区のほぼ北西に位置し、鶴見川の上流、谷本川と恩田川に挟まれた丘陵地にあり、国道246号線に沿い北西に広がる地域である。かってはこの辺りは住宅もまばらな純農村地帯であったというが、現在は駅周辺に中高層住宅が軒を連ね、トレンディドラマ「金妻」のモデルとなった美しが丘に近いお洒落な街である。
昭和48年の開校以来36年、この学校には「制服」がない。横浜では私服の中学校は145校のうち岩崎中学校と青葉台中学校の2校だけだそうだ。
「でもね、ここの子たちは自由と規律をちゃんと心得ていて、私服でも派手すぎたり乱れたりということはないんですよ」と、織茂篤史校長先生は誇らしげにおっしゃった。
織茂先生は、今年3月までは港北区にある日吉台西中学校の校長先生であった。昨年11月、日吉台西中学校で「心の宅急便」を呼んでいただいたご縁で、今年転任なさった青葉台中学校に又呼んでくださったのである。
昨年の日吉台西中学校での学校訪問記でも書かせていただいたが、先生のモットーは“一年中、歌声が響き、花が満ち、みんなの笑顔が溢れる学校でありたい“である。
赴任されて半年、きっともう青葉台中学校でも先生のモットーがそこかしこに花開いているに違いない。
「いやー、去年とてもお話しがよかったのでね、青葉台中学の人権週間にも来ていただこうと思って先生方に推薦したんですよ」
お会いするなり、そんな嬉しいことを言ってくださる織茂先生である。
「こちらは米井先生です。人権の担当の先生ですので、心の宅急便に必要な打ち合わせをお願いします」
身のこなしが軽やかで気持ちよいほどに日焼けした米井哲朗先生は、それもその筈、保健体育の先生であった。
「とりあえず、体育館を見ていただきましょう。お人形などの設置場所も何処にすればいいか、見ていただいた上で・・」
軽やかな足取りで米井先生が歩き出した。

青葉台中学校の体育館は正面玄関から右に長い廊下を行き、渡り廊下を経て階段を上がった二階にある。階段を上る途中から、生徒たちの歌声が聞こえて来た。門を入る時も二階の教室の窓から合唱練習らしい歌声が聞こえていた。
「合唱コンクールが近いのでしょうか?」とお聞きすると、「もう、みんな追い込みでね、いやー、頑張ってますな」と感心したような顔で米井先生がおっしゃった。
体育館に入ると、三年一組の生徒が練習をしていた。背の高い男子生徒が指揮棒を振り、その前で三十人ほどの生徒が横二列に並んで歌っている。どの顔も真剣な表情だ。真っ直ぐに指揮棒に目をやり、大きな口を開け、足を踏ん張って歌っている。なんという歌か知らないが、とてもいい歌だ。それに上手である。お世辞抜きに上手だ。音程が確かで、何十人もの声が言葉がくっきりと一つに聞こえ、強弱の表現や感情表現が豊かに伝わってくる。
歩きながら聞いていたが、ふと足を止めた途端、「Woo−」という最後のハモリが私の身体を捉えた。丁度音が一点に集まる逆三角形の頂点に私は足を止めてしまったらしい。
素晴らしい合唱に思わず身体が震えてしまった。

あれから二ヶ月・・・あのクラスは優勝したのだろうか・・?そんなことを思い出しながら青葉台中学校に「心の宅急便」を届けに来た。
昨年の「心の宅急便」は朗読はピアノ伴奏だったが、今年はハープ奏者の長村美代子さんが「心の宅急便」に参加してくださり、朗読の伴奏とハープコーナーで演奏をしてくれている。しかも今日は先日の日吉台西中学校と同様、ゴージャスにグランドハープを運んで来てくれているのだ。
「いやあ・・・グランドハープなんて生徒は見たことがないだろうから喜びますよ。生で聴けるなんてね、そうそう機会ないから」
そう言う織茂先生も心なし興奮なさっている。
「重くなければいつでも何処の学校でも持って行ってあげたいんですけどね」と長村さんがにっこり笑って言った。高さ187p、重さ36kgのグランドハープは一人ではとても運べない。通常、「心の宅急便」ではもう少し軽くて小さいアイリッシュハープで演奏するのだが、たまたま前日 他のコンサートで車に積んだ状態にあったので、青葉台中学校もグランドハープで演奏してくれることになったのだ。
「運ぶのは僕たちに任せてください」
織茂先生が呼んでくださった若い二人の男の先生が「ヨイショ!」と掛け声をかけてグランドハープを車から降ろし台車に乗せた。廊下はそのまま台車を押せばすむが、ここの体育館は二階である。階段は持ち上げて運ばねばならない。
「すみません。大丈夫ですか?」と心配する長村さんの声に、「大丈夫でーす!任せてくださーい」と若いお二人の先生の爽やかな声が返って来た。

色々準備が整って、さて、トイレにでも行っておこう・・・と思った時のことである。傑作な出来事があった。トイレに行く少し手前に技術室がある。その前に立っていたセータールックの技術員さんが私の着物姿に「??」と首を傾げて声をかけて来た。
「今日は何?踊り?」
思わず私はプッと吹き出しそうになった。そうか・・・着物を着ていると踊りを踊る人に見えるんだ・・・!
笑いながら首を横に振る私に、その人は重ねた。
「ああ・・・お茶かー」
「いえいえ」と又首を横に振る私にその人は、なんだろう・・?と考え込んだ。私が手で口をパクパクするジェスチャーをすると その人はポンと膝を叩いた。
「分かった!民謡だ!」

講演の出番を待つ控え室では、私が民謡の歌い手と間違われた話で盛り上がっていた。
心の宅急便の講演では、豆紙人形を展示したり、母の話をして母の人生を綴った「手のひらのしあわせ」を朗読するので洋装より和服が合う。そんな訳で私は着物姿が定番となっている。学校に着物姿は奇異に見えるかもしれないのだが、いつの間にか自分自身はその違和感に慣れてしまっていた。全く知らない人から見たら、やっぱり踊りかお茶か民謡なんだろうなあ。
「そろそろ・・」
と織茂先生のお声で私たちは控え室を出た。
青葉台中学校では事前学習として三週間ほど前に「人権についての学習」を各クラスでやってくれていた。資料プリントでも「いじめっこの気持ち」や講演会のプリントなどを配布してくださっていたせいか、生徒たちが顔を合わせる度に「お話待ってまーす」とか「ハープも演奏してくれるんですか?」とか親しげに話しかけてくれる。制服という枠がないせいか生徒全体に硬さがなくとてもフレンドリーに感じる。
 織茂先生を先頭に体育館に向かっていると、二人の女生徒がこちらに向かって歩いてきた。
「おいおい、お前たち、何処に行くんだ?そっちじゃないだろう?体育館だろう?」と織茂先生が言うと「違うってば。すぐ戻ってくるから!待っててよ!私たちが帰って来るまで絶対始めないでよ!先生、約束だよ」と織茂先生に向かって可愛いことを言う。
ああ、いい感じだなあ・・と思う。校長先生と生徒がこんなやり取りが出来るなんて、いいなあ・・・と思う。
「ほんとに、生意気でね」
と言いながら、織茂先生も嬉しそうだ。

講演は、この間青葉台中学校に来た時の合唱コンクールの練習風景から始めた。あの素晴らしい合唱をするこの学校の子どもたちに「心の宅急便」から生まれたメッセージソング「あなたがいい」と「友だちにならない?」の歌を是非歌ってもらいたいと願いながら、杉並児童合唱団によるCDを流しこの歌が生まれたいじめの背景などを語った。
 いつも子どもたちに話しながら思う。一人一人が自分自身に向かって、胸を張って「誰よりもあなたがいい」と言えたらどんなにいいだろう?!そして自分を好きになったその上で、身近な大切な人、家族、そして友人に「あなたがいい」と心から言えるようになったら、どんなにいいだろう?!と。
心淋しい想いをしている人、いじめにあっている人、一人ぼっちの人に、さりげなく「友だちにならない?」と子どもたちが言えるようになったら、どんなにいいだろう?!
話を、そして歌を聴いてくれている人全部に届かなくてもいい。この「心の宅急便」が辛い想いをしている子どもたちに少しでも届くよう、私は語り、長村さんは演奏をした。

お昼の御飯抜きでこの日のためにお世話くださった、織茂校長先生、西垣幹雄副校長先生、マイクやスクリーン操作の準備、そしてCDのタイミングを計って流してくださった個別支援学級の芦川清先生、ありがとうございます。
重いグランドハープを二階の体育館に上げ下ろししてくださった社会科の大木研二先生数学科の高橋充先生、保健体育の布沢耕平先生、社会科の米津一豊先生、ありがとうございます。見えないところで色々とお手伝いくださった先生方、ありがとうございます。
音響等を手伝ってくれた放送委員長さん、心のこもった感想文を可愛いカードに書いて読み上げてくれた二年生代表の生徒さん、綺麗な花束を渡してくださった二年生代表の生徒さん、そして青葉台中学校のみなさん、ありがとう!

横浜市立青葉台中学校の公式サイト


                                                                                                                         
 
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