学校訪問記に戻る   トップに戻る

学校訪問記 vol. 12 小布施町立栗ガ丘小学校

2008年12月5日(金)午前 「小布施町立栗ガ丘小学校」

小布施町立栗ガ丘小学校の皆さんと心の宅急便メンバー

「小布施町立栗ガ丘小学校の皆さんと心の宅急便メンバー」
左から市村多喜子さん、齊藤義男教頭先生、吉越眞一校長先生

小布施は栗の町、文化の町、旅人が心休める町・・・
町興しが日本で唯一成功した町と評判の高い小布施を初めて訪れたのは6年前、小布施に一つだけある新生病院の70周年記念イベントに招かれた時である。
私のミュージカル作品「猫の遺言状」「ゴールド物語」「幸せ猫」など三作の作曲演奏をしていただいた“マリオネット”というポルトガルギターとマンドリンの素晴らしい二人組のミュージシャンがいるのだが、そのお二人に新生病院から「小布施の歌」の作曲依頼がきて、そして彼等から私に作詞依頼が来たということが小布施の町にご縁ができたきっかけだった。
その時、マリオネットの紹介で市村多喜子さんという素晴らしい友を得た。横浜から小布施に嫁いで来た多喜子さんは、病気のお姑さんを長年介護して見送り、ご主人の仕事を支え、小布施に根付いてすっかり小布施の人となり、小布施のために色んな活動をなさっている。
私は多喜子さんに「オープンガーデン」という、旅人に自宅の庭を提供する小布施の人々の「心」を教えていただいた。
新生病院のイベントが終わった翌日、多喜子さんのお宅でくつろぎながらお茶をいただいている時、私は思いがけない光景を目の当たりにした。
土地の人間ではない全く知らない旅人がゾロゾロゾロゾロと市村家の庭に入り込み、行ったり来たり奥に入ったりあちこち眺め、果てはガラス戸越に家の中を覗きこみ、そしてそのまま通り過ぎて行ったのだ。栗の季節で旅人が多い時期だったから、それが朝から間断なく続く。
呆気にとられた私に、これがかの有名な小布施の「オープンガーデン」なのだと多喜子さんが教えてくれた。
「全く知らない人に家の中まで覗き込まれて気持ち悪くない?」と訊いた私に、多喜子さんはにっこり笑って答えた。
「ううん、ちっとも。だって同じ日本人じゃない?外国人だって、同じ人間じゃない?」
凄いと思った。「他人を信じる心」「旅人を迎える心」、もう日本から消えてしまったと思っていた“心”がそこにあった。多喜子さんの答えに見る小布施の人々の心、これが小布施を日本一の町にしたのだと感動したものだった。

その多喜子さんに昨年9月、小布施の市川和恵教育長を紹介していただいた。「子供たちに温かいもの、勇気や希望が出るもの、生きる力、いじめの怖さ悲しさを伝えたいので11月から“心の宅急便”というものを始めようと思っています」と語った私に、市川先生は「是非、この小布施に来てください。私、頑張ってみんなを説得します」と固く手を握ってくださったのだった。
 その半年後、今年の4月、市川先生からお電話がかかって来た。
「ムトーさん、12月5日、6日、空けていただけますか?小布施の小学校、小布施の中学校、そして小布施の町民に“心の宅急便”を運んできてください」

栗ガ丘小学校写真

2008年12月5日(金)、午前中は小布施に一校の小学校、栗ガ丘小学校での「心の宅急便」である。講演は11時スタートであるが、いつものことながらセッテイング等に時間がかかるので9時半までに学校に入った。昨日、お昼に車で横浜を出発し、快適に飛ばして4時間できたものの、小布施のインターを降りてから町役場に行く「たった10分の道」をぐるぐる迷ったことから、ご主人の仕事を手伝っている超多忙な多喜子さんが朝からホテルまで車で迎えに来てくれて、栗ガ丘小学校まで誘導してくれた。栗ガ丘小学校は小布施の町役場に隣接している場所にあるのだ。
 栗ガ丘小学校は正面玄関から校舎までの前庭が広々としていて、花壇や立派な植え込みががあちこちにある。その前庭で子供たちが十数人、絵の授業なのか何人かのグループに分かれて写生に励んでいた。
 14、5段はあるのだろうか?コンクリートの幅広い階段を上ると二階の正面玄関に辿り着く。校舎に沿った正面玄関右手の踊り場は、ステンドグラスが入れ子になったガラス戸が前面に広がり、珍しい菊の鉢が一杯飾ってあって温室のようだ。どこもかしこも光を反射してキラキラ光って、明るく広々とした学校だ。
 都会と違って土地をゆったりと使える強みもあるのだろうが、校舎内の廊下まで通常の学校の廊下の二倍くらいの幅広さである。磨きこまれた木の床が眩しいほどにピカピカだ。

 昭和45年に都住小学校と形式統合し、47年に小布施町立栗ガ丘小学校として完全統合された栗ガ丘小学校の現在の生徒数は687名、一学年3クラスの5年生以外は一学年4クラスの大所帯の小学校だ。
 だが「伝え合おう考えを!自分からしよう挨拶を!黙ってやろう清掃を!」の学校目標にあるように、私たちの姿を見かける度に大きな明るい声で挨拶をする子供たち、そして学校内の清潔な美しさを見るだけできちんと目標に達していることが分かる。
 しかも小布施の子供たちは大人に負けない素晴らしい観光大使なのだ。
 昨日、買い物をしようと小布施の町をなんとなく歩いていると中学校付近で一人の男の子が声をかけてきた。
「小布施、初めてですか?」
「はい、そうです」と答えると、ニッコリ笑ってその男の子は言った。
「小布施、いいとこでしょう?あそこのパン屋さんのくるみパン、とっても美味しいですよ!買って帰りや」

 さて、町ですれ違ってもそのくらい感じよく声をかけてくれる小布施の子供たちである。学校の中での気持ちよい声かけは半端じゃない。
「こんにちはー!」「いらっしゃいー!!」「今日、楽しみー!!」
可愛い声が体育館で会う子供たちから次々とかかって来る。
 教育委員会の江本聡さんがお人形の設営を手伝ってくださり、一年生の担任・北原紀夫先生がプロジェクター等、スクリーン操作の原田さんのお手伝いをしてくださり、大体の準備が早々と整い校長室にご挨拶に伺った。

 「遠くからよくおいでくださいました。もう、楽しみにしていたんですよ」
吉越眞一校長先生がみるからにお優しそうな顔をほころばせてこう言った。
「市川教育長からもムトーさんのことは色々聞いております。“心の宅急便”のメッセージソング、いただいたCDを二週間前から学校のお昼休みと休み時間に毎日校内放送で流しているんですよ」
「ホントですか?!ありがとうございます!」
 窓口になってメールをくださっていた教育委員会の江本さんからそのことは伺っていたが、実際に校長先生から直にお聞きすると嬉しさが倍増する。
「まあ、まずはお座りください」
吉越校長先生のお言葉にソフアに腰を下ろした私たちは思わず一斉に「アーッ!」と叫んだ。硬そうに見えたソフアが柔らかすぎて、お尻がズンと中に沈み足が浮きそうになったのだ。
その様子を見て吉越校長先生が頭を掻きながら「申し訳ないですね」と笑った。
「実はですね、このソフア、子供たちが校長室に入ってきてはトランポリンみたいにこの上でピョンピョンするんですよ」
 後ろをご覧下さいと言う校長先生の言葉でふり返ると、天井までの一枚ガラスの窓の前に葉を落とした枝垂れ柳のように長い枯れ枝を一杯垂らした大きな樹木が迫って見えた。
「これがですね、春になると実に見事なしだれ桜で満開のピンクになるんですよ。そうすると子供たちが毎日のように入れ替わり立ち替わりここにやってきて、その桜を眺めながら嬉しげにこの上でピョンピョンやるんですよね。おかげでスプリングが弱ってしまって、皆さんびっくりなさるんです」
 子供たちが自由に出入りして椅子の上でピョンピョンできる校長室・・・なんとも微笑ましい和やかな光景が目に浮かぶ。なんて幸福な栗ガ丘小学校の子供たち!

「お時間です。そろそろ舞台でスタンバイしてください」
江本さんの声で私たちは校長室を出て体育館に向かった。
全校生徒が床の上で整然と座っていた。700名近くいるのにザワザワガヤガヤもなく静かに講演が始まるのを待っている。小学生にしては珍しい光景である。
舞台の袖に裏から回って開始を待つ長村さんと私は、アイコンタクトで「凄いね」と言い合った。
突然、メッセージソング「友だちにならない?」のイントロが体育館に大きく流れ始めた。講演前にCDを流してくれると聞いていたが、なんと歌が始まると同時に、一年生から六年生までの生徒全員がCDに合わせて大合唱を始めたのだ。

♪♪  友だちにならない? いつか君は言ってくれた
     「いいよ」サラリと答えたけれど 嬉しかったんだ
     友だちにならない? 友だちにならない?
     このあたたかい言葉が 私から離れない

     誰にも言えずに泣いた 声を殺して泣いた
     あの日が今は嘘のよう だって友だちがいるから

     ありがとう 君のおかげさ こんな風になれたのも
     友だちにならない? この温かい言葉が
     私に勇気くれた 友情をありがとう   ♪♪

  胸の中がジーンと熱くなって言葉が出ない。嬉しさを通り越して涙が溢れそうになる。
まさか700人の大合唱でこの歌を聴くことが出来るなんて思いもよらなかった。
今年最後の「心の宅急便」の小布施で、こんな素晴らしいプレゼントをいただけるとは、・・・・!
子供たちの大合唱が終わったあと、私と長村さんは手が痛くなるほど拍手をしていた。

 小学生のプログラムは「友だちにならない?」の作詞をしたゆきちゃんのいじめ体験と歌が生まれた背景から始まって、生まれながらにして盲目の猫「野良猫ムーチョ」の一生を朗読する。猫にも人間と同じように「心や喜び悲しみ」があるということを、猫にも人間の人生と同じように「猫生」というものがあるということを子供たちに知ってもらいたいために読んでいる。そしてお待ちかねの長村さんのハープコーナーに繋ぐ。子供たちが大好きな「千と千尋の神隠し」から「いつも何度でも」、大ヒット中の「崖の上のポニョ」と弾くと、ザベリオ学園の時のように子供たちがハープに合わせて歌い出した。子供って、こんなに可愛いものだったのか・・・?!若い頃は子供も猫も大嫌いだった私が、そんな子供の様子に目を細め、一緒に身体を揺らして歌っている。人は変われば変わるものだ。
 今日の講演時間はきっかり一時間。いつものように母のことを話す時間が取れないので、“目も足も不自由ながら88歳から豆紙人形を作り始めたおばあちゃん“と簡単な説明だけをして、母の人生を書いた「手のひらのしあわせ」を朗読し終わりとした。

 講演後、低学年と高学年を二段階に分けて豆紙人形の鑑賞時間に入った。
 後ろに給食時間が控えているから早く鑑賞しなければならないのだが「早くしなさい!」とお人形に夢中になって停滞する子供たちに声をかける先生方も片手にカメラを持って小さな紙人形を食い入るように眺めている。「すごーい!!」「ちいさーい!!」「可愛いー!」と子供たちも感嘆の声をあげている。
 子供たちのその光景を横で眺めていた私の前に、吉越校長先生が一人の女の子を連れて来た。
「ムトーさん、この子ね、野良猫ムーチョを聴いて泣いちゃったって言いに来たんです。握手してあげてください」
「泣いちゃったの?」
「うん。かわいそうで。でも・・・よかった」
恥ずかしそうに手を差し出すその女の子と握手をすると、「私も泣いちゃったよ」「私も!」
と次々に子供たちが可愛い手を差し出してくる。
もみじのようなその可愛い手を一杯握って、私は栗ガ丘小学校を後にした。
吉越校長先生、齊藤教頭先生、PCをお手伝いくださった北原先生、子供たちに「友だちにならない?」の素晴らしい合唱指導をしてくださった宮ア和代先生、温かく「心の宅急便」を迎えてくださった栗ガ丘小学校の全ての先生、そして お行儀がよくて明るく元気で可愛い栗ガ丘小学校のみなさん、さようなら!そしてありがとう!

小布施町立栗ガ丘小学校の公式サイト


                                                                                                                         
 
                                                             学校訪問記に戻る   トップに戻る